日本語で「悲嘆」とも表現されるグリーフ(Grief) とは、喪失(Loss)に対する感情的な反応のことです。
人は、様々な理由でグリーフを経験します。愛する人との死別、人間関係の喪失、健康の損失、ペットの死、メンタルヘルスの損失、金銭的な危機、解雇などです。
新しい国での生活で経験する特徴的なグリーフもあります。慣れ親しんだ文化慣習に触れられない、母国と同じ社会的・経済的地位が得られない、孤立感、サポートの欠如などといった、文化的・社会的喪失です。
グリーフの過程で経験する感情は非常に様々です。
ショック、否認(「嘘でしょ⁈」)、怒り、後悔、罪悪感、無力感、悲しみ、淋しさ、絶望、困惑、恐怖、不安、安心(例. 死による病気の苦しみからの解放)、受容など、種々多様です。
私のグリーフカウンセリングの経験からも、喪失に対する感情は個人個人で異なり、また、変遷すると感じています。例えば、同じ1日の中でも、「大丈夫前を向いていける」と感じられたのに、180度反転して突然悲しみに襲われる、など。これは普通のことなのです。
参考に、グリーフの過程として提唱されている様々なモデルの中で、私がよく参照するリチャード・ウィルソン博士の「グリーフの渦」を以下に載せました(図参照)。
説明すると、
人生の川を船で漕いでいたら、ある喪失により一気に滝へ流れ落ち、ショック状態になります。「これは冗談だ」と現状を否定する期間でもあります。
次に、滝壺の中で、怒り(なぜ私がこんな目に遭わなくてはいけないのだ)や後悔(こうすればよかった)、悲しみ(もう戻ってこない)など様々な感情の渦に打ちのめされます。
場合によっては、滝壺の渦の中で身動きが取れなくなります。具体的には、今まであったものが全て洗い流されてしまったかのように放心し、前に進めず日々のタスクをこなすのも難しくなります。あるいは、滝壺の端の岩に打ちつけられ傷付きます。即ち、不安症やうつ、免疫の低下による疾患、不眠など、心身への症状を経験します。
次第に、滝壺から次の川へと出られる=状況を受け入れられる時がやってきます。その過程では、「悲嘆する自分」と「立ち直ろうとする自分」の2つの間を行ったり来たりしながら、「新しい普通」を築いていくのです。その際、亡くなった人に対する罪悪感や裏切りを感じてしまうかもしれません。でも、人生に新しい意味を見つけていくことの方が大事です。
グリーフの旅路では、逆戻りすることも当然起こり得ます。命日や心の琴線に触れる出来事、蓄積したストレスなどを感じている時に、再び喪失の感情をありありと感じることもあるでしょう。そんな時はいつでも「悲嘆する自分」になっていいのです。でもまた「立ち直ろうとする自分」に戻って来れるのです。時間の経過と共に、「立ち直ろうとする自分」の方に戻ることは容易になってくるはずです。
あなたが経験している喪失(Loss)はありますか?
それに対してあなたはどのように対応していますか?
次のコラムでも触れますが、自分の気持ちを話すことが最も効果があると言われています。
人生の中で避けて通れない様々なLoss。自分の心に耳を傾け、自分を労わることを忘れないで下さい。
自分の気持ちを気兼ねなく話せる人がいない場合などは、カウンセラーにアクセス下さい。
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